欧州市場を「実演」で切り開く|大橋
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大橋は、実演型の開拓スタイルで欧州市場に入り、造園・果樹農家という最適なターゲットを発見。さらに、欧州の厳しい安全規格を「制約」ではなく製品を進化させる機会と捉え、そこで鍛えられた機械を日本へ逆輸入。海外挑戦そのものが、国内製品の品質向上を生むサイクルを確立しています。
「国内だけでは生き残れない」先代からの危機感
きっかけは、先代(父)が抱いていた「このままでは日本市場は縮小する」という強い危機感でした。
2010年頃から、日本は人口減少が顕著になり、当然ながら私たちの製品(樹木粉砕機)の需要も減っていきます。このまま国内だけでやっていては、いわゆる「茹でガエル」のように、じわりじわりと環境が悪化し、気づいた時には手遅れになってしまう。
そうなる前に、どこかに突破口を見つけなければならない。生き残るためには海外に出るしかない。その想いが起点となっています。
そこは、創業家としての「DNA」のようなものが影響しているかもしれません。
実は先代は若い頃、バックパックを背負って欧米を放浪していた経験があり、元々海外志向が強かったんです。そして私も、学生時代に同じようにバックパッカーとして、約10ヶ月かけて北半球を一周した経験があります。
親子そろって肌感覚として「世界は広い」と知っていたため、「海外展開はマストである」という認識は、社内でも自然と共有されていたように思います。
フランスでの“苦い”経験と、「実演」という突破口
いえ、最初は全くダメでした(笑)。
きっかけは、ジェトロ(JETRO)さんから「フランスの展示会に出展してみないか」と提案を頂いたことでした。意気込んで出展したのですが、当時は「ただ機械を置いて展示するだけ」だったんです。
私たちの粉砕機は、実際に木を砕いている様子を見てもらわないと、そのパワーや性能が伝わりません。静止した機械を置いているだけでは、現地の来場者には何も響かず、手応えのない結果に終わりました。
「動いているところを見せないとダメだ」と痛感しました。そこで、ベテランの日本人社員(英語は話せない)と、オーストラリア人の社員(英語は話せるが機械知識は浅い)の2名を現地に送り込みました。
彼らはトラックに機械を載せて、フランスやオランダの販売店を直接回る「実演の旅」に出たんです。
はい。そうして現地の販売店を飛び込みで回る中で、思わぬ収穫がありました。
ある販売店の方が、「君たちの機械にぴったりの展示会があるよ」と、より条件の良い展示会を教えてくれたのです。
そこで教わった新しい展示会にすぐに申し込み、今度はとにかく「実演(デモンストレーション)」を行いました。実際に目の前で木をバリバリと粉砕してみせたんです。すると、それを見ていた現地の代理店の方が「これはすごい、うちで扱いたい」と声をかけていただけたのです。
それが、輸出が本格的にスタートした、今から約10年前、2014年頃のことです。
「環境」から「造園」へ。現地で修正したターゲティングのズレ
ジェトロさんの支援で最初に出た展示会は、「環境・リサイクル」がテーマでした。しかし、そこに来るのは大規模な処理を行う「産廃業者」などが中心。私たちが得意とする「剪定した枝の処理」とは、ニーズも規模も違っていたのです。
はい。そこで原点に立ち返り、仮説を立て直しました。
日本で私たちの機械を使っているのは、造園業や、みかん農家などの果樹園の方々です。「それならヨーロッパでも、造園業や、オリーブやブドウなどの果樹農家がターゲットになるはずだ」と。
例のトラックでの移動中、現地の販売店に飛び込み、自分たちのターゲット(造園や果樹)と合う市場はないかと聞き込みをして回りました。
すると販売店の方が、「それなら、もっとターゲットに合う展示会があるよ」と教えてくれたのです。
漠然と出展した展示会でずれを感じ、具体的な「造園・果樹」というターゲットを絞り込みながら、現地で答え合わせをしたことが、正しい市場への入り口になりました。
一方で、同じ時期にチャレンジした東南アジアでは、当時はまだ環境機器に十分な投資をする段階ではなく、大きな成果には繋がりませんでした。この経験から、「市場の成熟度や文化背景を見極めることも市場調査の一部である」と強く意識するようになりました。
欧州の厳しい「安全規格」が、日本の製品を強くする
一番の壁は、現地の「製品規格(安全基準)」への対応でした。
特にヨーロッパは、機械に対する安全基準が日本よりも格段に厳しいんです。現地の規格に合わせるために、製品を一から作り直す必要がありました。
しかも、その基準が書面上では曖昧な部分もあり、「どこまでやればクリアなのか」が分からず、最初は手探り状態でした。実際、オランダの取引先とは条件面や規格のすり合わせが難航し、契約に至っても2年弱で解消してしまった苦い経験もありました。
はい。当初は想定していなかった大きなメリットがありました。それは、「進化した製品を日本に逆輸入できる」ということです。ヨーロッパの厳しい安全基準や、機械文化の中で揉まれて改良された製品は、当然ながら安全性や品質が向上しています。
その「欧州で鍛えられたモデル」を日本国内に展開することで、日本のお客様に対しても、より安全で高品質な提案ができるようになりました。海外の厳しい環境への適応が、結果として国内での競争力強化にも繋がったのです。
「弱み」を見せるから、社員が助けてくれる
大切にしているのは、「自分を飾らないこと」です。
社長だからといって、完璧である必要はありません。むしろ、自分の弱みや悩みをさらけ出す。「社長、ここ弱いな。じゃあ俺が助けてやるよ」と社員に思ってもらえるような、等身大の自分でいることを心がけています。
はい。先代もそうでしたが、社員を信じて「任せる」ことが重要です。
例えば海外営業の際も、私は「英語が話せないベテラン社員(機械のプロ)」と、「機械知識はまだ浅いオーストラリア人社員(英語のプロ)」をコンビにして送り出しました。お互いの凸凹を補い合うことで、私がいなくても現場で判断し、成果を出してきてくれる。そんなチーム作りを目指しています。
「もったいない」の精神で、世界の環境課題に挑む
私たちは「人と環境に寄り添う」ことを約束として掲げています。
脱炭素や資源循環は、もはや日本だけの課題ではありません。世界中で、剪定された枝や木材がただ燃やされ、CO2を排出している現状があります。
日本には「もったいない」という素晴らしい精神があります。捨てればゴミですが、粉砕してチップにすれば資源になる。この日本の技術と精神を、私たちの機械を通じて世界中に広げ、未来の子供たちが豊かに暮らせる環境を残していきたいですね。

グローバルニッチトップ事業本部 取締役
日本企業が海外で持続的に成果を上げるための戦略をリードしている。
“実演”が市場を開き、“規格”が製品を強くする。
大橋さんの海外展開は、シンプルですが本質的です。粉砕機の価値は、静置された展示ではなく「動かした瞬間」に宿る。その本質に立ち返り、トラックで現地を回る“実演型”の戦略へ切り替えたことが、欧州での突破口になりました。
さらに、大きな壁となる欧州の安全規格を「コスト」ではなく「製品を磨く機会」と捉えたことも象徴的です。厳しい規格に合わせて改良したモデルが、結果的に日本市場の競争力を高める──海外での挑戦が企業全体を強くする好循環を生み出しています。
大橋の基本情報
1988年設立。佐賀県を拠点に、樹木粉砕機(チッパー)の開発・製造・販売を行う。1948年創業の草刈機メーカーをルーツに持ち、環境事業へ特化するために分社化。国内トップクラスのシェアを持ちながら、2010年代より欧州・アジアへの海外展開を推進。欧州の厳しい安全規格に対応した製品開発力を強みとし、環境負荷低減と資源循環に貢献している。
| 会社名 | 株式会社大橋 |
|---|---|
| 所在地 | 佐賀県神埼市千代田町﨑村401 |
| 代表者 | 大橋 由明 |
| 設立 | 1988年5月(昭和63年) |
| 事業内容 | 環境機器・農林業機械・産業機械の研究開発及び製造、販売、輸出入業務 |
| 海外展開地域 | イギリス・フランス・ドイツ・東南アジア |
| 公式サイト | https://www.ohashi-inc.com/ |
本記事はFM軽井沢のラジオ番組「軽井沢ラジオ大学」での対談を再構成しています
このインタビューは、FM軽井沢にて放送された「軽井沢ラジオ大学」 株式会社大橋 代表取締役 大橋 由明氏 × Zenken株式会社 取締役 本村 丹努琉 氏の対談をもとに編集しています。
