蔵元自ら届けた日本酒|南部美人
https://www.chichi.co.jp/info/chichi/pickup_article/2024/202405_kuji_kousuke/
Top
Point
情熱と技術が生んだ瞬間冷凍
蔵元自ら世界を巡り日本酒の素晴らしさをあらゆる方法で伝えてきた南部美人。遠距離輸送でも搾りたての味を届けるために開発したのが“時を止める”瞬間冷凍技術です。熱意と技術、両輪で日本酒を世界基準へ押し上げました。
SAKEを海外へ、その始まりの一歩
祖父が二戸から盛岡へ、父が東京へと販路や知名度を広げた「南部美人」。その先にあるのは“世界”——そう思い続けてきました。高校時代の米国短期留学の経験も、背中を押してくれました。
私が入社したのは90年代。当時は海外進出の支援も乏しく、まさにゼロから道をつくるところからの出発でした。それでも、自分たちの力で外へ踏み出すという意思は揺らぎませんでした。
日本酒の素晴らしさを世界に伝えたい。まずは「日本酒=SAKE」の認知を上げる――そのためには、つくり手である蔵元が自ら語るしかないと考えました。そこで1997年に日本酒輸出協会を立ち上げ、文化と背景まで含めて伝える取り組みを始めました。

https://www.nanbubijin.co.jp/tsumikasane/whisky/
自らの足で、世界へ歩みを広げる
協会を立ち上げた直後、ニューヨークのジャパン・ソサエティから「日本酒について話せる人材がいない」とセミナーと試飲会の依頼が届き、私たちが対応しました。こちらで国を選べる状況ではなく、最初の扉が自然にニューヨークで開いた、というのが実情です。
セミナーで関心を生んだあとは、現場での導入につなげる段階です。レストランを一軒ずつ回り、現場で紹介して飲んでもらう——いわば“どさ回り”。一日で二十軒歩く日もありました。直接会い、グラス一杯で伝える。そこから実際の取り扱いを地道に広げていきました。
日本では限定本数や酵母・麹などの技術面を聞かれることが多い一方、海外では「テロワール」と「マリアージュ」。地域の物語と食との相性を語ることが求められる。だからこそ、つくり手である蔵元が自ら現地に立つ必然がありました。
浸透していないものが生む誤解と偏見
現場での試飲を重ね、導入の話が出る一方で、厳しい言葉もありました。現地の日本人から「日本で売れていない酒を持ってきたのか?」「久保田と八海山があれば十分」と言われる場面もあったんです。
根深かったのは「防腐剤が入っている」という誤解です。日本酒は法律上入れられないことを、何度も、何度も、繰り返し説明しました。分かってもらえない苦しさは長く続きましたが、いまではこの点はだいぶ解消してきたと感じています。
やることは一つです。通い、注ぎ、対話する。直接会って、グラス一杯で伝える。そこに尽きます。

https://www.nanbubijin.co.jp/tsumikasane/whisky/
海外進出後も進化を止めない
海外でまず問われるのは「テロワール」です。つまり、その酒がどんな土地の息づかい(気候・土壌・風土)をまとっているか。岩手の蔵が兵庫の米で仕込むことへの問いかけ——ワイン文化圏でいえばブルゴーニュの常識——に向き合い、私たちは岩手の酒米「吟ぎんが」の研究を取り組みました。土地と酒を一本の線で結ぶための選択でした。
酸化防止剤を使わない日本酒は、長距離輸送ではリスクもコストも大きく、最大の課題でもありました。岩手・二戸で生まれた搾りたての味を、時間と距離を越えてそのまま届けたい——その思いから研究を開始しました。
生の刺身のようにおいしい冷凍カツオを味わい、“生と変わらない冷凍”を実現する液体急速冷凍装置「凍眠」を知ったことから、この技術を日本酒にも活かせないかと研究を始めました。
しぼった酒を即時に凍結し、官能検査・長期保存テストを繰り返すこと数年。瓶の破損や味の変化を何度も経験しながら、ようやく納得の品質にたどり着きました。
蔵で生まれた瞬間の100点の味を、時間を止めて距離をゼロにして届ける——その発想から生まれた、瞬間冷凍酒「フローズンビューティー」は、フレッシュさを楽しむ「日本酒」ならではの味を最大限に生かした改革ともいえると思っています。
評価に刻まれた手応え
「日本酒=SAKE」としての認知が進み、南部美人の名も広く知られるようになりました。2017年、インターナショナル・ワインチャレンジ(IWC)では「特別純米」がチャンピオン酒を受賞。輸出は63カ国に広がり、いまではは64カ国目の交渉も進んでいます。
最も遠いのはチリのイースター島。もちろん30時間かけて自分で足を運びましたよ。(笑)
言葉の壁を越えて伝える熱意
誰かに任せて、機会を待って——では始まりません。いいものを作るだけでは届かない。作ったものを、どう伝えるかが勝負です。言葉は関係ない。現地へ行き、飲んでもらう。美味しいに国境はありません。まずは足を運ぶ。その行動が一番の近道です。
1902年(明治35年)創業の老舗酒蔵。岩手県二戸市で代々酒造りを継承し、四代目・久慈 浩(現会長)が販路を全国へ、五代目・久慈 浩介(現社長)が入社後に海外展開へ踏み出した。2017年にはインターナショナル・ワインチャレンジ(IWC)で「特別純米」がチャンピオン酒を獲得。創業120周年(2022年)を経て、伝統と品質を礎にブランドを磨き続けている。

https://www.nanbubijin.co.jp/tsumikasane/whisky/

グローバルニッチトップ事業本部 取締役
日本企業が海外で持続的に成果を上げるための戦略をリードしている。
“自ら歩く蔵元”が市場を拓く。
南部美人が世界で支持された理由は、海外の文化や食の価値観を理解し、その文脈に沿って日本酒を紹介したことにあります。 単に「美味しさ」を伝えるのではなく、テロワール(地域性)やマリアージュ(食との調和)といった国際的な感覚で価値を語り、文化としての日本酒を提案した。 さらに、液体急速冷凍などの技術革新で“蔵で生まれた瞬間”の味をそのまま世界へ届けた。 技術と伝え方の両輪を磨くこと——それこそが、南部美人が日本酒=SAKEを“世界共通語”に押し上げた最大の要因だと言えます。
南部美人の基本情報
1902年創業。岩手・二戸の地酒として培った酒造りを軸に、蔵元自らが「テロワール」と「マリアージュ」を語り、啓蒙と現場導入を両輪に世界へ展開。1997年に日本酒輸出協会の立ち上げに関与し、セミナー/試飲を通じて「日本酒=SAKE」の認知を広げた。鮮度と地域性を重視し、岩手の酒米「吟ぎんが」や瞬間冷凍「フローズンビューティー」などで価値提供を磨いている(資料A)。
| 会社名 | 株式会社南部美人 |
|---|---|
| 所在地 | 岩手県二戸市福岡字上町13 |
| 代表者 | 久慈 浩介 |
| 設立 | 1902年(明治35年) |
| 事業内容 | 清酒・リキュールの製造/販売(卸・小売「通信販売を含む」) |
| 海外展開地域 | 63カ国(交渉中:64カ国目) |
| 公式サイト | https://www.nanbubijin.co.jp/ |
本記事はFM軽井沢のラジオ番組「軽井沢ラジオ大学」での対談を再構成しています
このインタビューは、FM軽井沢にて放送された「軽井沢ラジオ大学」 株式会社南部美人 社長 久慈 浩介氏 × Zenken株式会社 取締役 本村 丹努琉 氏の対談をもとに編集しています。
