現地で醸し、世界で飲まれる酒へ|八海醸造
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日本酒を日常の一杯に
国内市場の縮小を感じ、ニューヨークへ販路を拡大。そこで見えたのは、輸入品ゆえの作り手と飲み手の間にある「情報の距離」。現地における情報発信と経済の循環を生み出すために“現地醸造”を選択し、日本酒を《世界の日常酒》へと押し上げています。
理念と危機感が背中を押した海外進出
私たちは、会社の最も大切な目標として『永遠に終わらない会社』であり続けることを掲げています。これは、現状維持は衰退の始まりであり、常に次の準備をしなければならないという危機感の表れです。事実、国内の日本酒市場は昭和50年頃(約950万石)をピークに、現在は200万石ほどにまで縮小しています。
私たちは自らに危機感を持たせる言葉として『創造的破壊』と呼んでいますが、利益が出ているうちに次の事業を構想し、自分たちの力で未来をつくっていく。その繰り返し。その哲学と危機感が、私たちを海外へと向わせました。

https://www.makuake.com/project/hakkaisan/
具体的な第一歩は、約30年前に遡ります。ニューヨーク(ニュージャージー州)のスーパーマーケットにお酒を卸したのが始まりでした。そこで手応えが見えれば、本格的に営業をかけようと考えました。
その際も、ただ商品を売るのではなく、私たちの方針や酒造りの背景にある“成り立ち”に共感していただく。その姿勢は国内も海外も同じです。そうして、地道な営業活動を続けてきました。
ニューヨークで直面した「情報量の壁」
営業を続ける中で直面したのは、ニューヨークでは日本食ブームが起きているにもかかわらず、「日本酒の消費が、日本食の人気ほどには伸びていかない」という現実でした。
日本食を食べる時に日本酒を飲む方もいますが、まだワインやビールが主流で、日本酒の需要がなかなか伸びていかない。その原因を探る必要がありました。
ある時、現地のレストランで気づいたのです。テーブル担当のウェイターが、メニューに八海山が載っているのに、お客様に勧めてくれない。なぜなら、彼ら自身が「米からなぜこんな(素晴らしい)ものができるのか」を説明できないからです。
ワインであれば、彼らは現地のワイナリー(例えばロングアイランド)からのリアルな情報でお客様との会話を盛り上げることができます。しかし、遠い日本で作られた輸入品は情報量が圧倒的に少なく、説明のしようがない。
この「日本との物理的な距離」が、そのまま「情報量の格差」となり、販売の壁になっていることに気づきました。
「現地で作る」という必然的決断
結論は、「アメリカで作らなければダメだ」ということでした。
「高品質な日本酒は海外ではできない」だとか、「米はどうする?」「水は?」「技術は?」と、やらない理由を探す議論は簡単です。ですが、私にはそれが「初めからやらないことを決めている議論」にしか見えませんでした。物事は「やる」と決めてから始まります。
レストランのウェイターが、ワインのようにリアルな情報を語れない。その壁を本気で壊すには、彼らがいつでも情報を得られる「現地」に、私たちが存在するしかない。そう考えたのです。

https://www.hakkaisan.co.jp/
もう一つ、非常に重要な理由があります。それは、現地の「応援団」を増やすことです。
日本から完成品を輸入するだけでは、アメリカ社会の経済は動きません。例えば現地の日本料理屋さんは、地元の漁師や市場と付き合うことで地域経済を回し、「応援団」を増やしていますよね。
日本酒も同じで、現地で雇用を生み、経済を回す存在にならなければ、本当の意味で社会に受け入れられることはない。そして何より、日本酒が本当に「世界飲料」になるということは、世界中で作られるようになることだと思いました。
そのための具体的な一歩が、2021年のブルックリン・クラとの資本業務提携でした。

https://ec-hakkaisan.com/collections/brooklynkura?srsltid=AfmBOorC11beaj-F2sZTiR-99pWFzSveBgAgSIJ7S1zqd05KMH64UNDb
提携がもたらした「成果」と未来への布石
「情報量の格差」をなくし消費を増やし、現地の暮らしに寄り添うことで「応援団」を作ることという当初の目的は着実に成果につながっていると感じています。
もちろん、日本から高品質な清酒を輸出することは、これからも我々の重要な使命です。しかしそれだけにとどまらず、この提携は八海醸造が「永遠に終わらない会社」であるために、そして日本酒が「世界飲料」として次の100年へ進むために不可欠な一歩だと確信しています。

https://ec-hakkaisan.com/collections/brooklynkura?srsltid=AfmBOorC11beaj-F2sZTiR-99pWFzSveBgAgSIJ7S1zqd05KMH64UNDb
信念を貫く「わがまま」と、人を頼る組織づくり
経営者自身が「こうあるべきだ」という強い信念を持つことが大事だと思います。
私自身、特別な人間というわけではありませんが、ただ、「こうあるべきだ」と思うと、どうしても実行しないと我慢できない。昔、母から「お前は天才的なわがままだ」と言われたことがありますが(笑)、自分がやりたい、やるべきだと信じたことは、やり抜く。その信念がなければ、困難な挑戦は始まりません。
ええ。ただし、私一人の信念だけでは何もできません。
私は、かなり人を頼ります。例えば、今の海外チームは、私など足元にも及ばないほど有能な人たちが世界中を飛び回っています。
ですから、アドバイスとしてはこの両輪です。経営者が「こうありたい」という強い信念(わがまま)を持つこと。そして同時に、自分ではできないことを認め、それを補ってくれる優秀な人たちを頼り、活躍してもらえる組織を作ること。この2つが揃って、初めて会社は前に進むのだと思います。

https://www.kimono-yamato.co.jp/about-us/news/株式会社やまとが新たに生まれ変わります%E3%80%80―-新/

グローバルニッチトップ事業本部 取締役
日本企業が海外で持続的に成果を上げるための戦略をリードしている。
“現地で造る”という決断が、市場構造を変える。
八海醸造が直視したのは、輸入では埋まらない「情報」と「経済」の壁です。 日本酒の価値は、造り手の思想や背景を語れる“語り手”がいて初めて伝わる。 だからこそ現地で醸し、雇用を生み、情報を生活者の近くで循環させる—— この戦略は、日本酒を“特別な酒”から“日常の一杯”へ変える必然の一歩でした。
重要なのは、自社の価値をどこで再現するべきかを見極める力です。 八海醸造の挑戦は、日本企業が世界で戦うための思考プロセスそのものだと言えます。
八海醸造の基本情報
1922年(大正11年)創業。新潟・南魚沼の豪雪地帯で、八海山の伏流水「雷電様の清水」を仕込み水に清酒づくりを行う一方、焼酎・梅酒・地ビール「RYDEEN BEER」、麹甘酒「麹だけでつくったあまさけ」までを自社製造。そのほか、物販・外食・観光拠点なども展開し、量と質の両立=供給責任を掲げる理念で事業を多角化している。あまさけ専用の発酵蔵開設(2013年)や地ビール製造開始(1998年)など、発酵を核にした領域拡張が特徴的である。
| 会社名 | 株式会社 八海山 |
|---|---|
| 所在地 | 新潟県南魚沼市長森1051番地 |
| 代表者 | 代表取締役社長 南雲 二郎 |
| 創業 | 昭和61年 |
| 従業員数 | 66人(令和7年3月現在) |
| 事業内容 | 清酒「八海山」をはじめとした酒類・麹甘酒の卸、 米・麹・発酵・魚沼をテーマとした食品の卸 |
| グループ・関連事業 |
八海醸造株式会社:清酒「八海山」の製造 株式会社魚沼新潟物産:「魚沼の里」「千年こうじや」運営/食品製造・販売 株式会社千年:グループ経営管理 |
| 公式サイト | https://www.hakkaisan.co.jp/ |
本記事はFM軽井沢のラジオ番組「軽井沢ラジオ大学」での対談を再構成しています
このインタビューは、FM軽井沢にて放送された「軽井沢ラジオ大学」 株式会社 八海山 代表取締役 南雲二郎氏 × Zenken株式会社 取締役 本村 丹努琉 氏の対談をもとに編集しています。
