稲垣栄洋氏について
ニッチトップを目指すことは、実は生物の戦略と同じ!?
当ページでは静岡大学大学院の教授で、生物学の研究を多数行っている稲垣栄洋氏にインタビューをした内容を掲載。生物の戦略から日本企業が学べることとはなにかを紐解くとともに、書籍についても紹介しています。
稲垣栄洋氏について

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00572/081500005/
生物の戦略に着目する
雑草生態学のスペシャリスト
1968年静岡県生まれ。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て、静岡大学で教授を務めています。農学博士、専門分野は雑草生態学です。
雑草学に関する多数の研究を行っており、ベストセラーとなった「生き物の死にざま」(草思社)のほか、ビジネスの戦略にも通ずる生物の戦略を細かく紐解いた「38億年の生命史に学ぶ生存戦略」(php研究所)、2023年9月に上梓した「雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々」(小学館)など、著書は多数。
「雑草の生き方にビジネスのヒントがある」という切り口で、多くの企業からのセミナーや講演の依頼も少なくありません。
稲垣栄洋氏にインタビュー
雑草の戦略は
今の時代に役に立つ

稲垣先生が生物学に興味を持った
背景はなんでしょうか?
元々小さい頃から生き物が好きだったんです。そこからずっと好きではあったんですけど、生き物の「戦略」に興味を持ち始めたのは、大学院で雑草を勉強し始めてからですね。
雑草って弱い植物なんですけど、その弱い植物がすごく強く振舞っている。生き物はみんな仲良くしているわけでなく、競い合ってるなかでそれぞれ戦略を持っているっていうのがだんだんわかってきたときに、すごいなって思ったんです。
雑草の戦略について
詳しく教えてください
雑草が生えている場所って、実はすごい特殊な環境なんですよね。水場とか、公園とか。雑草って何気なく生えているように見えるんですが、場所を選んでいます。
雑草が一番得意な場所は、変化が起こる場所。
いまの時代って「先が見えない」とか、「予測不能な未来」とか言うじゃないですか。雑草が得意としてるワードがすごい出てくるんです。
雑草は「予測不能な変化をいかに味方につけるか」っていうのが実は一番得意としていて、今の時代に雑草の戦略って役に立つんじゃないかなって思います。
雑草もニッチな領域で
ナンバーワンであるということですね
ニッチは元々、生物学の用語なんですよ。基本的にナンバーワンじゃないと生き残れないっていうのが、生物の世界の鉄則です。 人間の世界では業界2位はすごいことですし、3位や4位でも全然生き残れるんですけど、生物の世界は1位しか生き残れない。
1位になれる場所っていうのがニッチです。ビジネスではニッチやニッチマーケットは「隙間がすごく小さい」っていうイメージがあると思いますが、生物の世界では小さい隙間っていう必要はありません。ナンバーワンになれるのであれば、大きくても小さくても良い。
すべての生き物が
ナンバーワンになれる
オンリーワンの場所を
持っている

ナンバーワンしか生き残れない世界で、
なぜここまでたくさんの生き物が
いるのでしょうか?
ナンバーワンになる方法って、実はたくさんあります。生き物にとってニッチとは、「ナンバー1になれるオンリー1の場所」なのです。
大きなニッチをキープしておくのもいいんですけど、全部でナンバーワンはすごく難しい。ナンバーワンを確保しようと思ったら、小さく、絞り込んだ方がやりやすいんですね。 結果的に、生き物の世界もナンバーワンを維持するために小さく絞り込むっていう戦略をとっています。
ナンバーワンが脅かされそうになる
ケースでは、
生き物はどうしているのでしょうか?
ニッチシフトと言われる方法を用いています。基本的に生き物って戦いません。戦ってNo.2になってしまえば、イコール滅びるということなので。できるだけ戦いたくないんですよね。
基本的には戦いたくないので、どうするかというと「ずらす」っていう戦略をとるんですよ。
No.1のニッチがあるとしたら、その周辺にもNo.1になりやすい場所があるんです。No.1であるニッチを軸足にして周辺を探すように、ニッチを探してくんですよね。
この生き物が来たらこっちの方にニッチが動いていく、またここで争いが起こりそうなったらこっちの方に動いていくというように、常にニッチが流動的に動きながら、すべての生き物がニッチをキープしています。
そうした変化を、
生き物はどう捉えているのでしょうか?
多くの生き物にとって、変化はチャンスなんですよね。変化が起こることで成功できる生き物がすごく増えるんです。
たとえばビジネスだったら圧倒的な強者以外の企業にとっては、変化はチャンスでしかない。 これはチャンスに違いないと思って戦略を探せば、結果はかなり変わってくるんじゃないかなって私は思います。
変化はマイナスに捉えられがちなんですけど、耐えるとか、それを乗り越えなきゃいけないとかではなく、雑草の戦略を見る限り、「変化は利用するもの」なんですよね。
この変化をどう自分がプラスに変えるか、どう自分が有利になるように使うかというのが、雑草の基本戦略。そういうところが本当の意味での雑草魂だと思います。歯を食いしばって頑張る、とかは全然雑草魂じゃなくて。
戦略的にどうやって成功していくかが、雑草が常に考えていることなので、そういう意味で日本の企業にはぜひ本当の雑草魂を身につけてほしいなと思います。
「まともに戦わない」
これが弱者の戦略

この時代、中小企業はとにかく
さまざまなチャレンジを続けるのが
大事でしょうか?
そうですね。何が起こるかわからないとか、何が正解かわからないときって、数で勝負だと思うんです。たとえば植物の種で考えると、大きい種は競争力がある。だけど大きい種は少しか持つことができない。
小さい種は1個1個は競争力も弱い。でも、たとえば雑草は小さい種をたくさん作って、数で勝負する。そのうちどれかが成功するかもしれないから。
1個1個の小さな種って、すごい小さなチャレンジで小さなリスク。小さなリスクのチャレンジをたくさんする。たくさん種を蒔いていく雑草はそれで成功しているので、そういう形がうまくいくのかなって思います。
雑草以外の生き物の戦略も
同じでしょうか?
生き物の世界は基本、弱者の戦略の組み合わせです。ビジネスでは強者の戦略・弱者の戦略ってよく言われますが、生き物の世界では強者の戦略を取っている生き物はいないんですよ。
ライオン強いじゃん、コンドル強いじゃんって思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、あれも弱者の戦略の組み合わせで生き残っています。大きければいいとか、強ければいいで勝ち残れるほど自然界は甘くはない。
弱者の戦略、あるいは小さいことが強みということが、生物の世界が出しているひとつの答えだと思います。
これが38億年の進化の答えなので、ビジネスでもそこにヒントがある。そう考えるとグローバルニッチトップを考えたら絶対小さい企業の方が有利だと思います。大きい企業ではその一部でグローバルニッチトップを狙おうとなる。
GAFAもそうですけど、小さな弱者の戦略の組み合わせ、なんですよね。上手くいってるとこを突き詰めて、裏では実はいっぱい失敗しているみたいな話。そういう点では、小さいことの強みはあると思っています。
今後、日本企業が目指すべきは
どういう世界でしょうか?
ガラパゴスであることは、実は日本の大きな強みと思います。
日本が世界を席巻したとき、たとえば終身雇用とか、「うちの会社はみんな家族だ」と大企業が掲げていたりとか、世界の標準から外れているようなことたくさんやっていたと思うんですよ。
でも、グローバルな水準に合わせてからオンリーワンじゃなくて順位付けされる世界になってしまった。 そうなったらアメリカの方が上だし、ヨーロッパとか中国の方がスケールで上だよねってなっていって、いろいろおかしくなってきた感じがしています。
ガラパゴスの生き物は、優れた進化をしています。島の世界は生き物の競争が緩やかで、その環境の中で優れた形に進化をしていく。 能力とかスキルが優れているのが、島の生き物の強みなんですよね。
島の生き物は絶滅しているじゃないかって思うかもしれません。それはその通りなんですけど、そこは大陸から強い生き物が入り競争してしまった結果です。 大陸の生き物は競争を勝ち抜いてきているので、競争に強いんですよ。 島の生き物は生き物として優れているが、競争には弱い。だから島の生き物は滅んでいってるんですよ。
日本も同じことが言えると思います。日本って競争が緩やかですが、そのぶん優れた製品を生み出しやすい。 より良いものは何かっていうことを純粋に考えることに優れている。ライバル企業に勝つことよりも、より良い製品を作るということに力が注げる。
競争になるとスケールメリットで負けることも多くて、まともに勝負したら絶対勝てないフォールドでどんどん負けている。生物の世界と同じことが起こっているんです。
強みをうまく生かし、弱みからはうまく逃げる。そういった戦略を作ることは、人間だからこそできると思うんですよね。
ガラパゴスである強みを日本企業は絶対捨ててはいけないと思います。日本で当たり前のことが世界では当たり前じゃないよねということがたくさん起こっていますが、世界的に考えたら、実はすごくユニークだということもあります。
「まともに戦わない」。これが弱者の戦略です。相手の土俵でまともに戦ったら絶対勝てません。その点はとても大事だと思います。
ナンバーワンになる方法はたくさんあります。雑草は実は弱いけど、ニッチなフィールドではとてつもない強さを発揮しているように。
ニッチ戦略をより深く
理解したいなら必読の一冊
38億年の生命史に学ぶ生存戦略

https://www.amazon.co.jp/Learned-Life-History-38億年の生命史に学ぶ生存戦略-稲垣/dp/4569845754/ref=sr_1_1
今回のインタビューの核心でもある「生物の戦略はビジネスの成功のヒントになる」ということを、具体的な生物の戦略を引き合いに出して、稲垣氏が細かく解説している本です。
「ナンバーワンしか生き残れない」という生物の世界。その過酷な環境下で、なぜ多くの生物が生き残れているのか。それが実現できるのは、それぞれがニッチを持っているからです。
ニッチを見つけることは現代社会を中小企業が生き残る、勝ち抜くための方法のひとつであり、それが深く理解できる書籍といえるでしょう。
まだまだある必読書!
稲垣氏の注目の新刊
雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々

https://www.amazon.co.jp/雑草学研究室の踏まれたら立ち上がらない面々-稲垣-栄洋/dp/4093891338
大学研究室でおこなわれている研究成果や学生との日々の関わりを描いた、エッセイ。頑張りすぎる学生、細か過ぎる学生など、それぞれ個性を持った学生との日々も向き合い方から学べることは少なくありません。面談のときの立ち振る舞いや「指示待ち人間」に対する考え方など、マネジメントをする立場の方にも勉強になる一冊。
新刊に関して、
稲垣氏のメッセージ
今までにないチャレンジングな書籍
今までは生物の話とか、植物の話を書いていました。だから私はこう思うとか、だからこうですよね、というように、自分のことは絶対書かないようにしていました。
入試に使われる著者ランキングで5年連続1位にもなりまして、中高生の方に本を読んでもらう機会が増えたんですね。「先生がどういう研究をしてるのか知りたい」って声も多くなってきて。
ビジネス経営者の方も私の本を読んでもらって、「先生がどう考えてるのか知りたい」という読者の方が増えてきたことが本を出そうと思ったきっかけでした。
最初はちょっと恐れ多いな…と思ったんすけど、私も年齢が50を過ぎ、若い人たちに「自分はこういうことを考えてやっているよ」というのは書いてもいいかなって思ったんです。 研究室で私はこんな感じで研究していますとか、常にこんなこと考えていますみたいな。自分の考えを書いたので、受け入れるかどうか…。チャレンジングなんですよね。
中高生やビジネスマンの方に
読んでほしい
「私の研究生活を知りたい」という読者のために書きました。雑草の戦略や、雑草の生き方を私が学生たちにどう伝えているか、また、身近にある雑草の不思議さや、図鑑には書かれていない最新情報が書かれています。気軽に読んでもらえれば嬉しいですね。
企業の方とかと話していると、「今のZ世代どうですか」とか、「若い人の言う考えていることがわからない」って声を聞きます。
今の若い人たちは確かに僕ら世代とは考え方は違う部分はありますが、優秀だし、すごくいい世代だと思います。こういう人たちはこういう風に付き合ったらいいんじゃないの?って、自分の失敗も含めて綴っています。若い人たちの取説とまではいかないですけど、そういう感じでも読んでいただけるかなと。
まとめ
ナンバーワンしか生き残れない生物の世界、生き残るために生物はニッチでナンバーワンを勝ち取っているという事実は、意外な気づきではないでしょうか。相手の土俵で戦う必要はなく、自分がナンバーワンになれる市場を見極める。38億年の生物学の歴史から見えてきたひとつの真理は、この苦しい時代を勝ち抜くヒントになるでしょう。
